大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和26年(ナ)26号 判決

原告 浅香正三郎 外一名

被告 大塚正

一、主  文

原告両名の訴を却下する。

訴訟費用は、原告両名の負担とする。

二、事  実

原告は「昭和二十六年四月二十三日行われた堺市長選挙における被告の当選を無効とする。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

原告の請求の原因として主張するところは次のとおりである。即ち、被告は昭和二十六年四月二十四日行われた堺市長選挙に立候補して当選したものであり、原告両名はその選挙人であるが、横田博は被告の右選挙運動における出納責任者であると同時に選挙運動を総括主宰した者であり、宮井三郎、尾花作太郎はその両翼参謀として横田を補佐してまた選挙運動を総括主宰した者であるところ、横田、宮井、尾花の三名は被告の当選を得る目的で運動員又は有権者に対し金品の供与、饗応等をし、公職選挙法第二二一条第二二二条の罪を犯したものとして起訴せられ、同年十月二十三日大阪地方裁判所堺支部において横田、宮井はいずれも罰金五万円、宮井は罰金三万五千円に処する旨の判決言渡があり、右判決は確定した。(但し原告は確定の日を述べない。)従つて同法第二五一条第一項後段の規定により被告の当選を無効とすべきものであるから、本訴請求をするというのである。

原告は、被告の本案前の抗弁に対して次のとおり主張した。即ち、仮に刑事裁判がまだ確定していないものとしても、同法第二一一条は刑事裁判確定後三十日を経過すれば訴を提起することができないという訴提起期間の終期を定めたものであつて、その始期を定めたものではない。刑事裁判の言渡があれば訴を提起することができるのである。これは旧民事訴訟法において民事訴訟法第三六六条第一項但書のような明文がなかつたにもかかわらず、判決送達前には控訴提起ができるものと解釈せられていたのと同様である。又選挙に関する訴訟はなるべく速やかに処理しなければならないことは公職選挙法第二一三条第二一〇条等の規定によつて明らかであるから、この選挙に関する訴訟の本質から考えても、刑事裁判が確定しなければ訴を提起できないものと解することの誤つているのは明らかである。殊に刑事裁判の確定まで長年月を要する今日の実情からみて、その確定を待つていると市長の任期が満了する恐がある。更に新刑事訴訟法においては判決前は被告人の無罪を推定するが、有罪の判決言渡があれば有罪と推定し、保釈等の効力を失わせること、民事訴訟法において仮執行の宣言を附した判決と同様の観念に基いている。従つて有罪の判決言渡があれば、同法第二五一条により当選は無効となりまだ確定していなくても、訴が提起できるのである。被告の本案前の抗弁は失当であるというのである。

なお、原告は、横田等が被告の選挙運動を総括主宰した者であることを被告は知らなかつたとの被告の主張を否認すると述べた。

被告は、本案前の答弁として、「原告両名の訴を却下する。」との判決を求め、その理由として公職選挙法第二一一条第二五一条の規定によれば、当選無効の訴訟は刑事裁判確定の日から三十日以内に提起すべきものであるところ、原告主張の公職選挙法違反被告事件は、大阪地方裁判所堺支部において第一審判決の言渡があつたが、検察官及び被告人の双方から控訴の申立があつて、裁判はまだ確定していない。従つて同法第二一一条に定める訴提起の要件を欠く不適法のものであるから、本訴は却下せらるべきものであると述べ、

本案について、「原告両名の請求を棄却する。訴訟費用は原告両名の負担とする。」との判決を求め、その答弁として、被告が昭和二十六年四月二十三日行われた堺市長選挙に立候補して当選したこと、原告両名がその選挙人であること及び横田博、宮井三郎、尾花作太郎が原告主張のとおり第一審において有罪の判決言渡のあつたことは認めるが、横田は出納責任者として、又宮井、尾花は普通の運動員として、被告のため選挙運動をしたに止まり、いずれも総括主宰したものでない。仮に同人等が総括主宰した者であるとしても、被告はこの事実を知らなかつたものである。従つて原告の本訴請求は失当であると述べた。(証拠省略)

三、理  由

まず被告の本案前の抗弁について判断するに、原告は被告の選挙運動を総括主宰した横田博、宮井三郎、尾花作太郎は公職選挙法第二二一条第二二二条の罪を犯したものとして昭和二十六年十月二十三日大阪地方裁判所堺支部において有罪の判決言渡があり、右判決は確定したと主張し、原告主張のような第一審判決言渡があつたことは被告の認めるところであるけれども、右判決の確定したことはこれを認めるに足りる証拠なく、かえつて成立に争のない乙第一号証によると右判決に対し検事及び被告人の双方から控訴の申立があつて、大阪高等裁判所に係属中であり、右判決はまだ確定していない事実を認めることができる。

原告は、同法第二一一条は訴提起期間の終期を定めたものであつて、その始期を定めたものでなく、刑事裁判の言渡があれば訴を提起することができると主張するけれども、同法条において同法違反についての裁判確定の日から三十日以内に訴訟を提起することができるというのは、裁判確定の日から三十日を経過すれば訴を提起できないという期間の終期を定めるとともに、裁判確定の日から訴を提起できるという期間の始期をも定めたものと解しなければならない。思うに、選挙に関する訴訟の処理が急速を要し、その趣旨に従つて設けられた規定が同法中に存することは原告主張のとおりであり、同法第二一一条において訴提起期間の終期を定めたのも、この精神に基くものであることは疑を容れない。しかしながら、一面において、同法第二五一条第一項後段はその所定の選挙違反があつたため当選の無効を来すという重大な結果を生じさせるものであるから、第一審の判決言渡があつてもまだ確定しない以上、当選無効の効力は生じないとするのが当然である。もし原主張のように第一審判決の言渡があつただけで当選無効の効果が発生するものとすれば、その後右判決が破棄された場合、収拾することのできない法律関係の混乱を来すであろう。選挙に関する訴訟が急速の処理を要することや刑事裁判の確定まで多少の期間を要することだけでは右の解釈を不当とすることはできない。従つて同法第二一一条は刑事裁判が確定しなければ訴を提起できないことを定めたものといわなければならないから、右裁判確定前に提起せられた本訴は不適法としてこれを却下すべきものである。そこで民事訴訟法第九五条第八九条第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大野美稲 熊野啓五郎 村上喜夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!